郷土資料常設展 (第1回) | |
『尾張名所圖會』展 〜江戸時代尾張の風景〜 |
期間:平成15年2月19日(水) 〜 4月13日(日) |
場所:愛知県図書館3階 郷土資料展示コーナー |
○ 名所図会とは 「名所図会」は、名勝、古跡、風俗、名産、神社仏閣など名のある場所を絵と平易な文章で説明した地誌で、江戸時代には世間の好評を博し、各種のものが作成されました。「名所」とは歌に詠まれるほど有名な場所のことであり、図会が紹介する名所の多くに和歌や漢詩文などが載せられているのはこのためです。「図会」とは図や絵を集めたものという意味で、『尾張名所図会』は、いわば江戸時代尾張地方の絵入り観光案内書といえるでしょう。 ○『尾張名所図会』の成立 『尾張名所図会』の著者は、西枇杷島の青物問屋主人で教養人の野口道直(梅居)、尾張藩士で学者の岡田啓(文園)、挿絵は尾張藩士で画家の小田切春江によるものです。天保9年(1838)8月に編集が計画され、その後、現地を直接調査するなどして草稿が出来上がったのが天保12年(1841)11月のことです。天保15年(1844)2月にようやく前篇(全7巻)が、名古屋の菱屋久兵衛・菱屋久八郎から上梓され、名古屋をはじめ京都・大坂・江戸の書肆(本屋)からも出されました。図会刊行にかかった費用の大部分は、野口道直が負担し、そのために彼はほとんどの財産を使い果たしたといわれていますが、それでも前篇しか刊行出来ませんでした。このように図会の作成には、長い期間と莫大な費用がかかりました。後篇(全6巻)は明治13年(1880)になり、愛知県が出版費用の援助を行い、名古屋の片野東四郎から刊行されています。 ○『尾張名所図会』の内容 本図会は、美濃判の大きさで木版刷りの和装本です。構成は郡ごとにまとめられており、前篇に愛知郡(巻1〜5)、知多郡(巻6)、海東郡・海西郡(巻7)、後篇に中島郡(巻1,2)、春日井郡((巻3,4)、葉栗郡(巻5)、丹羽郡(巻6)を収録しています。解説文は和文体で、故事や由緒をまじえるなど、庶民向けに興味深く書かれています。また、いろいろな書物の記述を引用したり、実際、現地に赴き自分の目で観察をしたりしているため内容も正確です。書物の収集家で、博学多才な梅居や尾張藩撰地誌である『尾張志』を編さんした文園だからこそなしえた仕事といえます。また、挿絵部分も絵地図などの画工として実績のあった小田切春江が担当し、現地調査や関係資料を基にして、正確に詳しく描いています。尾張地方の基本的な地誌の一つであり、当時の風俗を知るための資料としても大変貴重なものです。 本館が所蔵する天保15年刊前篇の本には、「尾藩寺社官府蔵書」印が捺されています。「尾藩寺社官府」とは尾張藩寺社方の漢名で、かつては寺社奉行所の蔵書であったと思われ、出所が明確なものとして価値のある資料です。今回の展示では、当時刊行されたこれらの『尾張名所図会』を展示し、尾張地方の名所やそこに生きた民衆の様子の一端も紹介します。 |
□ 郷土資料関係展示一覧へ |