Hこれから気長に。

Hこれから気長に。
じっくり味わいたい長編などを集めました。心があたたまる小説、ながながと読み継がれてきた古典、美しい詩など、秋の夜長にゆっくりとお楽しみください。

 利用者の方のおすすめ本  

空飛ぶ馬 鮎川哲也と十三の謎   北村 薫 著   東京創元社  
【コメント】
ミステリーですが、殺人などは起こりません。
日常の中にある謎を、主人公の「私」と落語家の「円紫さん」が解いていきます。
主人公の「私」の一人称で語られる「思い」が親しみやすく、かつ繊細で、リラックスして読めます。
しかし、最初はたわいもなく見えた「謎」に、思いがけず人の弱さや哀しさが表れていたりして、読み応えがあります。
読書好きな主人公の、本に親しい日常の描写や、おいしそうな食べ物の描写なども魅力的です。何気ない場面にも味わいがあり、くり返し読んでしまいます。
おいしいお菓子などをつまみながら本を読むのが好きな方に、とくにおすすめです。
(日進市在住の方のコメントです)

忘れの構造   戸井田 道三 著   筑摩書房  
【コメント】
此の本は、私の永く愛読しているエセーです。
判りの良い文章ですが、書かれてある内容は知恵にあふれて容易ではありません。
「知識より知恵を」を標榜する、ネット社会昨今の風潮には、ちょうど良いかもしれません。
これから知恵を磨いてゆく若い方にも、そして人生の知恵を自負するシニアにも。
(名古屋市在住の方からのコメントです)

 図書館からのおすすめ本

ベスト・アメリカン・ミステリ ジュークボックス・キング   M.コナリー/編   早川書房
【あらすじ】
アメリカのホートン・ミフリン社が毎年刊行しているThe Best American Mystery Stories2003年版のポケミス版。2002年にアメリカ、カナダで発表されたミステリ短篇の中から、選りすぐられた20篇がここにある。自身、作家でもあるマイクル・コナリーとアメリカ・ミステリー界の重鎮オットー・ペンズラの選になるこれらの短篇はミステリ好きを決して裏切らない。
【おすすめのポイント】
どの作品も現代アメリカの世相を色濃く映している。現代アメリカの代表的な作家であるジョイス・キャロル・オーツの『頭蓋骨』のオーソドックスな手法を楽しむのも、タイラー・ディルツのポップな作品『悪党』のスピード感を味わうのもお気に召すままに。どれをとってもはずれはない。
【こんな人にすすめたい】
時間がなくてミステリなんか読む暇ないと思っているあなたに。
ミステリ好きなんだけど、最近、長編が読めなくてねとお嘆きのあなたに。
ミステリが三度の飯より好きなあなたに。

ダンテ神曲T〜V(土曜学校講義 5〜7)   矢内原 忠雄 〔著〕   みすず書房
【あらすじ】
著名な経済学者で戦後東大総長となった矢内原忠雄が、1937年に筆禍により東大教授を辞職したのち開講していた「土曜学校」の講義録全10巻のうちの5-7巻(順に、地獄篇、煉獄篇、天国篇)。1942年4月から1944年12月にかけて行われた、一字一句を詳細に解説しつつ読み進めてゆく講義の全容が記録されている。
【おすすめのポイント】
・講義を克明に活字化したもので、あたかも「土曜学校」に出席し著者の講義を聴いているかのような臨場感をもって読むことができると思います。
・戦時下という状況、筆禍事件の当事者であるという著者の立場、戦前から戦中戦後にかけて自らの姿勢を貫いた筆者の言動を考えると、単なる古典講読の記録にとどまらないものがあると思います。
・講義のテキストとして使用した中山昌樹訳が収録されています。
【こんな人にすすめたい】
どのような方が読んでもよろしいと思います。

海鳴り 上巻   海鳴り 下巻   藤沢 周平 著   文芸春秋
【あらすじ】
四十六歳の小野屋新兵衛は、努力の末に一代で店を持った新興の紙商人である。しかし、「骨身をけずり、果てにむかえた四十の坂。残された日々は、ただ老い朽ちてゆくばかりなのか。・・・家は闇のように冷えている。心の通じぬ妻と、放蕩息子の跡取りと」。世間的には紙問屋として功なった小野屋新兵衛。しかし老境の新兵衛の心に寂しさが深くひそむ。やがて、同業丸子屋のおかみ薄幸の人妻おこうに出会い、果せぬ想いをよせてゆく。おこうとの危険な逢瀬に、この世のほのかな光を見出した新兵衛。新兵衛は生涯の同伴者をおこうとし、おこうとともに駆け落ちすることを決意する。
【おすすめのポイント】
新兵衛にとっては、おそらく最後の恋となろう。江戸の時代、有夫の女と通じた男は引き回しのうえ獄門にかけられ女も死罪となる。逆説的ではあるが、だからこそ新兵衛の恋は純愛と化した。
映画化やドラマ化では、作者の思いは伝わらない。藤沢周平ファンにとって本書は、藤沢作品中の珠玉の名作です。
【こんな人にすすめたい】
心と体が疲れている中年の皆さんへ、おすすめします。

水墨集(白秋全集 4)   北原 白秋 著   岩波書店
【あらすじ】
初版は、1923(大正12)年 アルスより刊行された詩集。
【おすすめのポイント】
初期の作品群の鮮やかな色彩に彩られた南蛮趣味の詩とはずいぶん趣が異なっている。第一詩集「邪宗門」から十数年を過ぎて、童謡・民謡や、短歌などに仕事の中心を移していた作者久々の詩集。作品全体の感じを季節で言えば、秋から冬。澄みわたった空気を肌に感じることができる。
【こんな人にすすめたい】
まあ、人間長くやっていると(短くても)それなりにいろいろあって。毎日の生活の繰り返しにちょっと虚しいものを感じて。こんなこと思っているのは、わたしだけなんだろうかなあ…と考えているあなたに。

黒いユーモア(全集・現代文学の発見 第6巻)   大岡 昇平 〔ほか〕責任編集   学芸書林
【あらすじ】
1960年代の後半に刊行された現代日本文学のアンソロジーシリーズの1冊。内田百閧フ「朝の雨」に始まる17編、年代でいえば1930年代から60年代の作品を収録する。本集は花田清輝の解説。
【おすすめのポイント】
 織田作の「世相」や深沢七郎の「楢山節考」などよく知られた作品も収録されているが、平林彪吉「鶏飼ひのコムミユニスト」、泉大八「アクチュアルな女」などここでしか目にすることのできない佳作がある。そして何よりも尾崎翠「第七官界彷徨」が載る。尾崎は今では全集も刊行されているが、この作品を発掘したのはこのアンソロジーシリーズである。この作家の不思議な感覚をぜひ体験してみてほしい。
 この『全集・現代文学の発見』のセレクションはこの巻に限らず秀逸。再刊されて現在でも書店で購入することが可能。

外套(ゴーゴリ全集 2)   ゴーゴリ 著   河出書房新社
【あらすじ】
ペテルブルグのとある官庁に勤める九等官アカーキイ・アカーキエヴィッチは、外套を新調しなければならなくなった。意外にもそのことは50代で独身の彼にとっては唯一つの生活のはげみとなる。しかし、外套は彼の手に入ったその日のうちに、追剥に奪われてしまう。
【おすすめのポイント】
近代ロシア文学の出発点となる作品の一つ。ドストエフスキーが「われわれはみなゴーゴリの外套から出たのだ」と述べたことはよく知られている。ペテルブルグの街とそこに住む人を描く、悲しく哀れな物語だが、ゴーゴリの筆は愛情とユーモアにあふれている。

山之口貘詩集   山之口 貘 著   思潮社
【あらすじ】
沖縄出身の詩人、山之口獏の詩集。
【おすすめのポイント】
とても平易な言葉で書かれ、何かとぼけたような味わいを含んだ詩の数々。飄々とした文体ながら、その詩の中には「生きること」に対するペーソスとほのかな優しさが感じられて、静かな感動を味わうことができるでしょう。また、自身の出身地である沖縄を扱った反戦詩も、印象深いものになっています。
【こんな人にすすめたい】
「詩なんてものは、訳が分からなくてとっつきにくい」と考えている人へ。

虞美人草   夏目 漱石 作   岩波書店
【あらすじ】
27歳の哲学者甲野さんとその家族、友人らが繰り広げる財産相続と愛憎劇。最後はハッピーエンドに終わる明治の新聞連載小説。
【おすすめのポイント】
夏目漱石自身後々この作品に関しては否定的に扱うそうであるが、絢爛豪華な日本語による人物のこころの動きの装飾が読み応えがある。
【こんな人にすすめたい】
軽い日本語に飽きた人に

空飛ぶ馬 鮎川哲也と十三の謎   北村 薫 著   東京創元社
【あらすじ】
表題作『空飛ぶ馬』のほか、『織部の霊』『砂糖合戦』『胡桃の中の鳥』『赤頭巾』全5作からなるミステリ短編集。女子大生の「わたし」と春桜亭円紫が身の回りのささいな事件を解いていくシリーズの第1冊。刊行当時著者のプロフィールは明かされず、謎の作家として話題になった。
【おすすめのポイント】
この作品は、ミステリでありながら殺人や暴力といった場面はありません。気持ちがほわっとなる暖かな作風、ちょっとした日常の謎解き、国文学や落語に関する薀蓄などお楽しみがいろいろあるところがおすすめです。また、シリーズ化していますので、このあと『夜の蝉』『秋の花』『六の宮の姫君』『朝霧』と続きます。お気に召した方は他の作品もどうぞ。主人公の成長も楽しみのひとつです。
【こんな人にすすめたい】
悲惨な結末の推理小説は苦手、という方に。学生生活真っ只中のあなたに。
また、学生生活が懐かしいあなたに。

もしもし   ニコルソン・ベイカー 〔著〕   白水社
【あらすじ】
全編が、男女ふたりの電話による会話のみという設定の、アメリカの現代小説です。見知らぬ男女がヒョとしたことからアダルト電話ラインで出会います。会話は「いま何着てるの?」で幕が上がり、お互いの性的体験、性的幻想を微細に語り合います。そして互いに言葉で刺激しあい、性的興奮を高め合い、やがて・・・・。そしてラスト「二人は電話を切った」まで、リノンストップのエロティック描写が、リアルタイムで展開します。
【おすすめのポイント】
語られる会話は、超エロティック、とことん過激、かつリアル。なのに、読後感の爽快さはなんでしょう。まず登場人物がセックスを肯定していること、男女対等の立場でエロティシズムに向かい合う設定であること、登場人物の話し方(訳者が巧い)のおおらかさ、あっけからんとした明るさ、にあるようにおもえます。そこには、後ろめたさ、秘匿されるべきものといった暗さは微塵もありません。あけすけさは下品とならずユウモアに昇華し、美しいまでファンタジーとなっています。
【こんな人にすすめたい】
登場人物はともに会社員、一人暮らし、年齢設定は三十歳前後です。女性が爽やかに描かれています。ですから、あなたに。

野菊の墓 ほか  伊藤 左千夫 作  講談社
【あらすじ】
政夫の生家は江戸川べりの村にある旧家。十五歳のとき、病弱の母の世話をするためきたのが従姉で二つ歳上の民子。二人の純粋な慕情とその後の悲劇が描かれます。
【おすすめのポイント】
ここしばらく、「純愛もの」がブームを呼んでいます。『冬ソナ』しかり『せかちゅう』しかりですね。そうした涙腺を緩めたい方にお勧めしたいのが『野菊の墓』です。既に何度か映像化され、年配の方にはお馴染みですね。これを読んだ夏目漱石が「野菊の花は名品です。自然で、淡泊で、可哀想で、美しくて、野趣があつて結構です。あんな小説なら何百篇よんでもよろしい」と絶賛しました。
【こんな人にすすめたい】
あらためて読み直すもよし、まだの方は「泣けそう・・・!?」の期待を胸に手にとられてはいかがでしょう。

バビロンに帰る   スコット・フィッツジェラルド 〔著〕   中央公論社
【あらすじ】
村上春樹訳のフィッツジェラルド本第三弾。表題紙バビロンに帰る他短編5本とエッセイ1本の翻訳と本人の作品に対するコメントをのせた一冊。
【おすすめのポイント】
「キャッチャー・イン・ザ・ライ」で翻訳家としても世間に名の知られた村上春樹が趣味的に訳した短編集。ロストジェネレーションの代名詞フィッツジェラルド作品を好きだからこそこう訳したというのがよくわかります。

最終講義   西脇 順三郎 〔ほか著〕   実業之日本社
【あらすじ】
古今の碩学が大学を退職する際の最終講義を収録したもの。
【おすすめのポイント】
・収録されている18人の学者はいずれも錚々たる、その分野の大家で、その最終講義を1冊に収めたこと自体が興味深い企画と思います。
・講義で語られる内容は、長年の研究生活の総括であったり、学問観・人生観であったり、または、単に先回講義の続きであったり、と多様ですが、全体として、学問・研究に対する厳しさと愛情が伺われるように思います。
【こんな人にすすめたい】
どのような方が読んでもよろしいと思います。

椰子・椰子   川上 弘美 著   小学館
【あらすじ】
「一月一日 曇
もぐらと一緒に写真をとる。」
から始まる少しばかりかわった日記。山口マオさんの挿画とともに綴ります。
【おすすめのポイント】
夢のようにちょっとズレたお話。不思議な川上弘美ワールドに入ってみてください。
【こんな人にすすめたい】
少し現実に疲れている人に。

僕らは星のかけら   マーカス・チャウン/著   無名舎
【あらすじ】
全ての物質を成り立たせている原子はどのように生まれたのか。
様々な分野からその謎解きに加わった人々の人間ドラマをまじえて、原子をつくり出した「魔法の炉」のありかを探し出します。
【おすすめのポイント】
やさしく、おもしろく読み進むことが出来ます。
小さすぎてつかめない物の「素」や、大きすぎて、雲をつかむような宇宙も、文字通り、身近なことであると納得できます。
【こんな人にすすめたい】
秋の夜空を眺めながらゆっくり時間を過ごしたい方。

万葉集 上巻   万葉集 下巻   武田 祐吉/校註   角川書店
【あらすじ】
日本に現存する最古の歌集、全20巻。歌の作者は天皇から庶民に及ぶ。時代は、明記されているものを信じれば、仁徳天皇の時代から淳仁天皇の天平宝字三年(759)まで、約4,500首を収録。短歌を主として長歌、旋頭歌等がある。
【おすすめのポイント】
大部な歌集なので全て読み通す事は困難。またその必要もない。短い詞書を頼りに歌を楽しむも良し。歌をよすがに、その成立の謎を追うも良し。また個々の歌人を追うのも楽しい。ぜひ、その歌の詠まれた歴史背景を知る努力をすることをお勧めする。楽しみが一段と増すこと請け合い。万葉集に登場する人物を素材としてさまざまな著作もものされている。例えば、歌人として名高く多数の歌を残しているにも関わらず、正史に全くその名前の現れない柿本人麻呂の謎を追った、梅原猛の「水底の歌」(資料ID1102515102、1102515111)、二上山に葬られた大津皇子を主人公にした釈超空の「死者の書」(資料ID1102756367)。これらの著作もお薦めである。
【こんな人にすすめたい】
和歌を楽しみたい人。日本古代史に興味のある人。

ダンテ『神曲』講義   今道 友信/〔著〕   みすず書房
【あらすじ】
著名な美学者である著者が“専門外”である(しかし50年にわたり読み続けてきたという)ダンテの『神曲』を1997年3月から1998年7月にかけて15回にわたり講義した際の記録。導入に続き、地獄篇、煉獄篇、天国篇、と順をおって読み進めてゆく。毎回の質疑応答の内容も収録されている。
なお、本書は800部の限定版として刊行されたものだが、2004年には改訂普及版が刊行された。
【おすすめのポイント】
・講義録ということで比較的読みやすく、難解な『神曲』を読み進める際の理解の助けとなる文献と思います。
・巻末に国内外の文献リストを掲載
・2003年、第25回「マルコ・ポーロ賞」を受賞
【こんな人にすすめたい】
どのような方が読んでもよろしいと思います。

りかさん   梨木 香歩/作   偕成社
【あらすじ】
 ようこが欲しがっていたのは「リカちゃん人形」。おばあちゃんが送ってきたのは市松人形の「りかさん」。がっかり。でもこの「りかさん」、実は不思議な力を持っていた。
人と心を通わせる人形「りかさん」。ようこは彼女と一緒に、古い人形たちとかつての持ち主たちの思いに触れていく…。
【おすすめのポイント】
 これも一つの冒険譚と言っていい。血湧き肉踊るシーンはなくても、登場する人形たちに秘められた物語を一つずつ紐解いていく。それは、ようことりかさんの、日常の中での静かで、上質で、優しい冒険譚だと思う。最初のがっかりはどこへやら。ようこにとってりかさんは、冒険を重ねていくことで親友、いや相棒に近い存在になっていっている。さしずめ、おばあちゃんはその冒険を支える賢者といったところか。
 姉妹編の「からくりからくさ」も是非一緒に。
【こんな人にすすめたい】
 こども(小学校高学年から)が楽しく読めます。
 大人にも読み応え十分です。
 だから、みんなにおすすめします。